クルマ散策:和田智トークショーへ行く
雑誌『ENGINE』主催、「和田智・トークナイト」に行ってきました。
これは、和田氏が手がけたイッセイ・ミヤケブランドの時計「W」シリーズの新作完成に合わせ、時計とクルマのデザインについて語るという内容。氏の希望により、代官山は蔦屋書店の「Anjin」にて行われました。
で、メインは、「センス」をお題とした40分に渡る和田氏のプレゼンテーションです。
アウディを離れ、日本に戻った氏がまず驚いたのは、デザインはもとより、生活の隅々にまで感じられた「品格」の欠如だそう。電車内で携帯に見入る人々、街を埋め尽くす緩い格好のミニバン群。
日産でセフィーロなどの実績を残した彼でさえ、アウディに入社して「デザインに必要なのは、先人の仕事への敬意と継続」ということを初めて学んだと言います。それは常に新しさが評価される日本のメーカーとは真逆であり、彼の仕事のターニングポイントになったと。
センスは両親の影響はもちろん、そうしたデザインへの姿勢から成り立つ社会からの影響も大きい。その中で品格も育まれるという話です。
プレゼンではその品格のひとつの例として、ドイツでのアウディのTVCMが紹介されました。その企画と演出力、観る側の想像力を掻き立てる映像は圧倒的で、タレント頼みのどこかのメーカーとは比較になりません。
とくに、もともとデザイナーの提案から開発が始まったというA7のCMは圧巻。天から舞い散る数千、数万枚のデザインスケッチが次第に折り重なり、最後にA7のボディになる演出には、大袈裟でなく目頭が熱くなりました。
さらに、今回のWのシリーズでは日本の文化や自然の中にある「白」をテーマに、新たに「絶対的な美しさ」というキーワードを掲げたとか。そうしてこの「センス」「品格」「美しさ」を中心にプレゼンは進みました。
で、まとめは先日行われたゴルフⅦの発表会場でのワルター・デ・シルバ、ジョルジョット・ジウジアーロ両氏の対談からです。
当日司会を務めた和田氏は、自分がデザイナーになるきっかけとなったジウジアーロ氏に「美しさとは?」という質問をぶつけたそう。これは多くのメディアで紹介されていたのでご存知の方も多いと思いますが、「美とは日本の着物や建築、文化やライフスタイルにあふれている。だから日本人の君にそういう質問をされると困惑してしまう」という答だったそうで、これに和田氏はたとえようもなく感銘したと言います。
さらに「単なる新しさはすぐに古くなる。しかし本当の美しさはすたれない」という言葉は、アウディで10年の間デ・シルバ氏に育てられた和田氏の信念に確信を与えたと言い、氏は彼らの正当な後継者として確かな仕事をしたいとも語りました。
それにしても面白いのは、デザインを学び、厳しい難関をくぐり抜けて入社した日本メーカーのデザイナーであれば、そんなことは当然のこととして認識しているかと思いきや、実はそうではないという事実でしょうか。
和田氏の言葉を借りれば「来年の黒字のためにデザインを使うような社長がいるメーカーに、A7は絶対作れない!」ということですが、現役クリエイターであるメーカーのデザイナーがそんな状況であるのは残念であり不思議でもあります。氏はとにかく一度外(海外)に出ないとダメと言いますが、それが本当ならこれはなかなか深刻です。
そうそう、そういう残念な国の評論家やジャーナリストにセンスや品格はあるのか? ということはしっかり自問しなくちゃいけないですね。
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コメント
こんにちは。
私個人的には国産車デザインがダメ、とは思いません。
好き嫌いはさて置き、キッチリ国内市場ニーズを反映し、実際に売上数字を出しているあたりは認めてしかるべきではないかと。
外車でも無機質なデザインのクルマもありますし…
個人的には国内では、やはりマツダみたいな緻密計算され、かつ感性に否応なく訴えかけてくるデザインが好きですが、皆さんが凝ったデザインや美しいデザインを求めている訳ではないと思いますし。
投稿: とあるイラストレーター | 2013年11月 8日 (金) 02時40分
さねさん
アウトランダー、いいと思いますよ。三菱はデザイン部長が代わってからなかなかいい感じになりましたけど、いかんせん車種が少ないので厳しいですね。しかも軽があんなことになってしまったし。
ぷじおさん
和田さんも、70、80年代の高度成長期はイケイケでよかったけれど、もはやそれは終わったんだ・・・と語っていました。どうしてそれに気付かないのか、と。まあ、日本中でアベノミクスとか言ってるんだから仕方ないですけど。
アクシオムさん
外国に行かないとダメだ、という話は納得もしますが、一方で本当に寂しい話です。和田氏は日本でデザインを認められるのはマツダだけと語ってましたが、結局役員のセンスなんでしょうか?
投稿: すぎもとたかよし | 2013年11月 7日 (木) 20時35分
デザインもさることながら、料理もセンスですよね。素材がいいだけじゃなく、その素材をどう活かしきるか?食材をどう切るかによっても味って変わってくる。
いまの日本に品格が欠けているとしたら、それは抑制することでしょう。腹八分目って言葉があるように、ほどほどのところで止めておくこと。感性の鋭さを要求されるデザイナーであれば、ギリギリのところ、つまり寸止めでやめておくことが肝心なんでしょうが、いま国産車のデザインはある意味過剰でその寸止めをはるかに超えてやりすぎている気がしますね。その割にコストに負けちゃって妥協しているし…
いくら情報がインターネットで見れるからと言って、海外に行かないで済むと思ったら間違い。モーターショウに行くと実感させられます。特にヨーロッパのショウに行くと、いかに東京モーターショウがダメかわかります。まず海外からメーカーをきちんと呼べていないこと。そして自国のメーカーが展示に対してケチりすぎていること。さらにショウできちんとクルマを見せることをせず、商売をしていないこと。前回のトヨタブースの狭さ、台数の少なさ、稚拙さはいい例かもしれません。
近くのビッグサイトより、ボクは遠すぎるフランクフルトメッセやパレエクスポ(ジュネーブショウ)に行った方がホントにクルマの見本市として見応えがありますから。
もし、デザインに興味があるなら、ジュネーブショウのカロッツェリアの展示や韓国メーカーのデザイン展示は見る価値があると思います。
投稿: アクシオム | 2013年11月 4日 (月) 00時02分
日本には元々優れたセンスと、西洋には無い価値観がありますよね。本来ならアウディのような極力線を減らす方向での美意識は日本人にも共感される(だからアウディが売れてますけど!)物ですし、私も、現フォルクスワーゲングループのデザインは車と言う工業製品として非常に高いレベルであると思っています。
「品格」と仰っているのは全くもって同意見です。 日本がこんな雑多で、「品格」が無くなってしまったのは、日本人の「一つの方向に突き進む」気質がもたらしているのでは?戦後の経済成長のタイプが激しい新陳代謝を伴う「上書き」の文化であり、拝金主義のアメリカ型でイケイケの前進のみで突っ走って、お金儲けしか考えなかった結果が現在の日本です。その商売方法は前の物を全否定し次の物を生み出すシステムでもあり、和田さんの仰る「先人の仕事への敬意と継続」とは逆の発想です。
現に自動車業界は今でも「以前の商品が劣っていて、新商品が優れている」病を患っており他の業界もほぼそれに倣っています。自動車のデザインを変える事、より良い普遍的な美しいデザインを生み出す事を業界は、まだ今の段階では「不必要」と考えていると思います。トヨタ車が売れていると言う事は即ち、トヨタ車を購入する人は「デザイン」は見ていないと言う事。これでは良いデザインを考えなくてもいいと感じるはずです。未だに日本の社会が新しいもの・高価であるものをよしとするレベルであれば、「品格」を問うのは難しいですね。それは「成金」の感覚そのものですから。 成金からの脱却が成熟社会の第一歩で、「品格」はそこからしか生まれないでしょう。
日本メーカーのデザイナーは、①デザインディレクターのセンスがなく、役員連中がプレゼンで口を出す ②学校では習っているが、実際の古今東西の美術品を生で見ていないし、名車と言われているものをバカにしているか、見ていない ③奇異な物・奇抜な物が新しいオリジナルなデザインだと勘違いしている(奇抜な物が何故世の中に出ていないのかを理解できていない程度の理解度である) ④デザイナーらしい!?奇妙な服装をしている ⑤頭が悪い
の、どれかに当てはまっているからダメなんじゃないですかね(私見)。
投稿: ぷじお | 2013年11月 3日 (日) 03時35分
たびたびすみません DOQじゃなくDQNなんですね(笑) 訂正します。すみません<(_ _)>
投稿: さね | 2013年11月 2日 (土) 01時12分
こんばんは。大変ためになる話でした、と同時に考えさせられました。デザインは奥深いなぁ…。日本文化は誇れる物が沢山あると自分は思ってますが、こと車になると…最近DOQて言葉ありますがDOQ使用雑誌あるぐらいですからね。すべてのチューニングカーやエアロ車高下げイルミネーション車がDOQと思いませんが、品がないのもまた事実。最近の日本車も何故かこれはかっこいいー!と無条件に思えるのも皆無。自分がカッコいい!と思ったのは細部に難ありですがアウトランダー。 品がありなかなかいいんですが内装が…。フォレスターや新しくでるハリアー、エクストレイル、フィット3にオデッセイにマツダ軍団、訳わからないトヨタ車軍団。DOQ受けのいいハリアーですけど、今度のはばかみたいにわざとフロントオーバーハング長くしたバランスが、個人的にはSUVにない面白い形で惹かれます。いずれにしてもアウトランダーガソリンも多分ハリアーも中身がしょぼいんだろうから長く持つデザインじゃないんだろうなぁ。すべての最近の日本車の傾向なんでしょうけど。着物や仏像、日本庭園など長い歴史がはぐくんで機能と美しさが完成したなら、長年に渡りこだわる水平対向エンジン、シンメトリカルAWD、真面目な車作りのスバルはカッコよく見えるのも(実際はカッコよくないのでしょうけど機能美?)納得。 SUVも含めいろいろ出揃ってきましたがアウトランダー長持ちするデザインと思えるし(世間ではありえないカッコ悪いと評判ですが…)メタルコクーンなアウトランダー特にガソリン車の機能と内装どうにかしてよ益子社長。 結局売りたい願望ありあり流行りばかり追いかけてるから日本文化のデザイン資質を使いこなせないし、人も品なく夢も希望もない時代だから、流行り物デザインでもしょーがないのかな。アウディと違い数売れなきゃ困るだろうし日本車。日本車デザインに過度な期待はしないことにしました(笑)
投稿: さね | 2013年11月 1日 (金) 22時53分